青春を無駄にしたものの精神の空虚さが滲み出ていた

高橋和己「日本の悪霊」読了。450ページのボリュームに加えて、該博な語彙の訴求力で恐ろしく読み応えがある小説だった。死に切れなかった元特攻兵の刑事、微罪で投獄されたかつての革命の烈士、この表裏一体の二人の主人公の胸中に渦を巻く世の愚昧なものへの諦観が、やがて作品全体も包括して読んでるこちらまで暗然とさせられる。ある意味で実に日本文学らしい作品ではないかと思う。そんな愚劣なものを象徴するようにときおり挿入される未決囚らの無為な日常がなかんずく白眉だったと思う。

空が灰色だから」第5巻で今回で最終巻。でも作者が精神を削って描いてるみたいな漫画が5巻ぶんもストックできたのはむしろ敢闘賞ものではないかと思う。その昔、同誌に連載されていた「マカロニほうれん荘」もまた鴨川つばめの精神状態が心配になるようなテンションで上り詰め、最後は絵も内容も糸が切れたように失速して幕を閉じたこと考えると、空灰は目立った破綻もないまま、また初期の雰囲気の「歩み」をもって掉尾を飾ることができたのはたまさかのファンとしては良かったように思う。