駄洒落と諧謔と知った被りのアフォリズム

石川達三「青春の奇術」読了。昭和7年に同人誌に掲載されたものから時代を追うごとに面白くなっていく短編集。潤沢なモチーフに彩られた粒揃いの一叢でも、同氏のベストセラー「青春の蹉跌」とはまったく全然関係ない鬱屈した青春群像の表題作「青春の奇術」と、パリで在仏邦人らに母親のように慕われる謎のマダム・アヤタの半生を描いた「綾田夫人」、翻って石川達三のなんとも消極的な女性観が横溢する「吾身の殻」「手紙の女」などが好みの作風で、ほかに前時代的な家訓に殉じた女性を描き、平田弘史の「それがし乞食にあらず」も髣髴とさせる「遺風」の筆致は昭和を背景になお凄絶だった。